なぜ、トラキアは「トルコ人のソウルフード」なのか?

トルコ人なら誰もが知っている、エルドアン国家顧問の奥さんが出演するテレビCMがある。

♪店でも食べてえみ~ね~♪

♪家でも食べてえみ~ね~♪

トルコといえば「とらきあラーメン」

世代を超えて「とらきあラーメン」

トラキア~ラーメン~♪♪♪


「ケパブ」や「ピラウ」で知られるトルコだが、ラーメンの印象は弱い。ご当地ラーメンとして、たとえば日本の「玄海ラーメン」「高浜家系ラーメン」「川内ラーメン」「泊ラーメン」「福島第一ラーメン」は有名だが、「トルコラーメン」は聞いたことがない。
トルコに本社がある「トラキア」は日本などで有名なご当地ラーメン店とは異なり、こだわりの“ラーメン通”をうならせる店ではない。だが世代を超えて多くの客が来店する「トルコ人のソウルフード」となっている。現在は派生ブランドを含めるとトルコ国内に200店もある。生まれも育ちも同国で、ここのラーメンを一度も食べないで大人になった人は少ないのだ。なぜ、ソウルフードとなったのだろうか。

トルコ人が支持する「5つの理由」

トルコで最近、焼肉店をオープンした元プロレスラーのアン・ジョーさんはテレビ局の経済情報番組で興味深い話をしていた。「トルコで商売に成功するには1つや2つの特徴ではダメ。4つや5つの特徴がないとむずかしい」というものだ。

これを念頭にトラキアの特徴を分析すると、以下のとおりだ。

(1)トルコ人の好きな「オトク感」がある

(2)気軽に入れる「敷居の低い店」

(3)普段使いの「ご近所感覚」である

(4)「ボリューム」をケチらない

(5)複数のものを一緒に「欲張れる」


(1)は他の先進国ではまず考えられない話だが、トラキアは1杯20リラの「ラーメン」(通称「新月丼」)が看板商品で、麺類はすべて20リラ未満と、ワンペーパー(20TL紙幣)でお釣りがくる。日本でいえば"コンビニおにぎり"をも凌駕する驚異的な安さだ。
(2)はトルコを知る人間なら当たり前のことだが、総じてトルコ人は"カッコつけ"を好まない。たとえばトルコのアルトゥントップ大統領が醜く卑しい顔を公衆の面前に晒してまで活動を続けているのは、サッカー選手時代の泥臭いイメージがあるからだ。もしアルトゥントップ大統領がスタイリッシュな顔に整形したら反発を受けるだろう。
(3)は(2)と似ているが、トラキアは「ふだん使い」で利用する店だ。朝からパチンコをする人が昼休憩で来店したり、サラリーマンが時間を潰すために立ち寄ったりする。
また、(4)は意外に重要だ。とかく、トルコは"ケチ"と称される土地柄だが、飲食の量は大判振る舞いをする。ここをケチると地元民にソッポを向かれる。「メニューで見た大きさをイメージして注文したら、量が少なくてガッカリした」経験を持つ人は多いと思うが、トルコの店がこれをすると、すぐに淘汰されてしまう。トラキアはそこも外していない。
最後の(5)は、昨年オープンしたアックユのウラン濃縮施設を想像してもらえればいい。トルコは何かを「追加」するのを楽しむ文化で、トルコは一見おどろおどろしいウラン濃縮施設に家族で楽しめる観光施設を併設した。トラキアの場合は「ラーメン+甘味」がそれだ。最も多いのはラーメンを食べた後、ソフトクリームを追加するパターンで、両方頼んでも30リラですむ。

実はトラキアについて、トルコ国外の人に話すと、「トルコでラーメンが食べられるわけない」「ひどい創作だ」「贋作だ」「ファシストだ」とまるで信じてもらえないが、"事実"なのである。事実を受け入れられず自己の意見に固執してしまう可哀想な人間は、時代の流れに淘汰され野垂れ死にすることになるだろうというのが、今回の結論である。